こんにちは。鍼灸師の菅野詩乃です。
「最近、ぐっすり眠れていますか?」
そう問いかけられて、
少しだけ胸のあたりがざわりとした方もいるかもしれません。
眠れない夜。 何度も目が覚める夜。
たくさん夢を見て、朝には疲れている夜。
その一つひとつは、あなたを責めるものではなく、
からだからのやさしいお便りです。
今日はその手紙を、東洋医学の視点で
そっと読み解いてみたいと思います。
眠りとは、陽が陰に還る時間
東洋医学の古い書物に、こんな一節があります。
「睡眠とは、陽の気が陰の中に入るプロセスである」

わたしたちは日中、活動のエネルギーである
「陽(よう)」を全身にめぐらせて動いています。
そして夜になると、その陽の気が、
からだの奥にある静かな「陰(いん)」へとゆっくり還っていく。
日が沈み、潮が引くように。
この切り替えがなめらかに起きたとき、深くやすらかな眠りが訪れます。
眠れないというのは、
この「還る」動きが、どこかでつまずいているサインなのです。
1.眠りをつかさどる「心」のこと
東洋医学で眠りをつかさどるのは、
五臓のリーダーである「心(しん)」です。
「心」には、わたしたちの精神や意識、
「神(しん)」が宿るとされています。
夜になるとこの「神」は、
一日の活動を終えて、おうちに帰り休みます。
その帰る家となるのが、
身体をうるおし養う「血(けつ)」や、
「陰液(いんえき)」と呼ばれる潤いです。
なかなか寝つけないとき。
それは家となる「血」が足りなかったり、昼間の高ぶりが残っていたりして、
「神」が家に帰れず、ふわふわと浮いている状態かもしれません。
夢をたくさん見て、途中で目が覚めるとき。
自律神経とかかわりの深い「肝(かん)」が高ぶり、
心の落ち着きがゆらいでいるのかもしれません。
2.胃腸の乱れは、安眠の敵
東洋医学には、
「胃、和せざれば、すなわち臥して安らかならず」
という言葉があります。
胃腸の調子がととのわないと、
横になっても心地よく眠れない、という意味です。
夜おそくの食事や食べすぎは、
身体の中に「湿(しつ)」や「熱」という余分なものをためこみます。
それが下から「心」を突きあげて、
眠りを浅くしたり、落ち着かない夢を呼んだりするのです。
お腹を軽くしてあげることは、
そのまま、眠りを軽くしてあげることでもあります。
3.夜の休息を支える「腎」の力
年齢を重ねるとともに、
夜中に何度も目が覚めたり、お手洗いが近くなったり。
心あたりのある方も、いらっしゃるかもしれません。
これは、生命力の源である「腎(じん)」の力が、
少しずつ静かにゆるんできたサインです。
「腎」には、夜のあいだ蛇口をしっかり締めておく、そんな役割があります。
ここをやさしくいたわることは、
途切れがちな眠りを、もう一度つなぎ直していく大切な一歩になります。
今日からできる、眠りの養生
むずかしいことは、何もいりません。
今夜から、取り入れられることをお伝えします。
1.足もとを、温める。
頭にのぼった陽の気を、下へ下へと導いてあげましょう。
足湯や、足裏のツボ「湧泉(ゆうせん)」をやさしく押すのがおすすめです。
のぼせがしずまり、気持ちが落ち着いていきます。

2.夕食は、控えめに、早めに。
胃腸を休ませてあげると、
からだは消化ではなく「休息」のほうへ、エネルギーを注げるようになります。
3.ほどよい酸味を、味方にする。
気が散らばって落ち着かないときは、
すっぱいものが、気をやさしく内側へ引き込んでくれます。
梅干しや、お酢を少し。心がふっと、静まります。
おわりに ― あなたの眠りの声を聴く
「寝つきが悪い」 「夢が多い」 「夜中に目が覚める」
そのどれもが、あなたを困らせるためではなく、
あなたの身体がそっと差し出してくれたお便りです。
そして、そのお便りの筆跡は、一人ひとりちがいます。
同じ「眠れない」でも、「心」からの声なのか、
「胃腸」からの声なのか、「腎」からの声なのか。
きのはなでは、舌や脈、お腹の状態をていねいに拝見しながら、
あなただけの「眠れない理由」を、いっしょに紐解いていきます。
眠りは、最高の薬。
その薬を、あなたの身体が自分の力で取り戻していけるように。
一人で抱えこまず、どうぞ気軽に、その声を聴かせにいらしてくださいね。
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