都会の喧騒から離れて ― 「リトリート」という、整え方

リトリート

こんにちは。鍼灸師の菅野詩乃です。

 

「私、いつ呼吸してたんだっけ」

ある日ふと、そう思ったことがあります。

 

満員電車に揺られ、忙しそうな人の波を抜けて、

気づけばスマートフォンに目を落としている。

 

呼吸は浅く、背筋は丸まり、

そのせいでまた息がしづらくなる。

 

空を見上げた時間。

木の葉がそよぐ音。 川のせせらぎ。

そういうものから、ずいぶん長いこと離れていました。

 

自然から遠ざかっていた日々

わたしは今、東京に暮らしています。

 

生まれたのは神奈川県の川崎市。

工業地帯ではないほうの、自然の豊かな場所で、

田園風景に親しんで育ちました。

 

けれど東京で働くようになり、都内に引っ越して、

いつのまにか自然から距離を置く生活になっていました。

 

都心の近くに住んでいると、

自分から進んで会いに行かないかぎり、

一日じゅう自然に触れない日がほとんどです。

 

太陽の光を浴びていない。

星空を見上げたのは、いつだったか。

野鳥の声を聞いたのは、何年前だろう。

 

やるべきことに追われ、心も体も消耗しきって、

気づけば一日が終わっている。

 

頭が休まらず、眠れない。

寝ても、寝た気がしない。

体も心も、いつも緊張したまま。

そんな日々を、過ごしていました。

 

「リトリート」という考え方

そんなときに出会ったのが、

「リトリート」という言葉です。

 

リトリートとは、「退く」「離れる」という意味の言葉。

 

日常の環境からいちど距離をとって、

自分自身に戻る時間を持つことを指します。

 

旅行のようにどこかへ出かけることもありますが、

目的は、動きまわって楽しむことではありません。

 

静かに自分と向き合い、整えること。

体と心、そして感覚をリセットするための時間です。

 

自然のなかで、力が抜けていく

わたしたちはもともと、

自然のリズムのなかで生きてきました。

 

朝日で目が覚め、日が沈むとともに、

体も休むほうへ向かっていく。

 

自然のなかで風や音、光や香りを感じながら過ごすと、

こわばった気持ちがゆるんで、

自然と体の力も抜けていきます。

 

わたしは自然のなかにいると、

何かに追われている感覚が、すっと抜けていきます。

 

ぐるぐると思考でいっぱいだった頭が静かになり、

代わりに、本来の自分の感覚が戻ってくる。

 

睡眠を削ってまで何かを頑張ったり、

精神をすり減らして自分をごまかしたり。

そういうことが、できなくなるのです。

 

千葉県茂原市という場所

はじめて夫の実家を訪れたとき、

不思議と懐かしさを感じました。

 

東京駅から乗り換えなしで、一時間と少し。

そこに広がるのは、田園風景です。

 

ゆったりと流れる時間のなかでしばらく過ごすと、

体の奥から元気が戻ってくる感覚がありました。

 

当時のわたしは、忙しさのなかで

咳がなかなか止まらなくなっていたのですが、

茂原にいた数日のあいだは呼吸が深くなり、

その咳がおさまっていたのです。

 

夫との出会いのおかげで、千葉県茂原市は、

わたしにとって大切な場所のひとつになりました。

 

都会のような賑やかさはありません。

そのぶん空が広く、自然に囲まれて、

時間がゆっくりと流れています。

 

特別なことをしなくても、

ただそこにいるだけで、ゆるんでいく。

 

この土地に何度も足を運ぶうちに、

こう感じるようになりました。

 

整えるときに大切なのは、何かを足すことではなく、

余分なものを手放していくことなのだと。

 

リトリートと、東洋医学

この感覚は、東洋医学の考え方とも深くつながっています。

 

東洋医学では、人の体と自然は、

切り離されたものではないと考えます。

 

わたしたちはいつも、

自然の影響を受けながら生きている。

 

季節や気候、暮らしの環境の変化は、

体のなかの気・血・水(き・けつ・すい)のめぐりにも、

そのまま届いていきます。

 

だからこそ、「どんな環境で過ごすか」は、

健やかな暮らしと切り離せない、

とても大切なことなのです。

 

自然のなかで過ごす時間は、

気・血・水の流れをよくして、

その人がもともと持っている力を呼び戻してくれます。

 

リトリートという考え方は、東洋医学の目から見ても、

とても自然で、理にかなったものなのです。

 

日常のなかに、小さなリトリートを

とはいえ、毎日自然のなかへ出かけるのは、

なかなか難しいものですよね。

 

だからこそ大切にしたいのが、

日常のなかに小さなリトリートをつくることです。

 

ほんの数分、スマートフォンから離れてみる。

ゆっくりと、深呼吸をする。

緑のある場所を、少し歩いてみる。

湯船につかって、体の感覚に意識を向けてみる。

 

それだけでも、少しずつ緊張がゆるんで、

自分のリズムが戻ってきます。

 

おわりに ― ほんの少しの、非日常を

わたしがお届けしたいのも、

そんな小さなリトリートの時間です。

 

鍼灸や指圧で体を整えることは、

もちろん大切にしています。

 

けれどそれと同じくらい、

心と体がゆるんでいく時間そのものを、

過ごしていただけたらと思っています。

 

忙しい日々のなかで、ほんの少し立ち止まること。

何かを足すのではなく、少しだけ手放してみること。

 

それだけで、わたしたちはもういちど、

自分の感覚を取り戻すことができます。

 

日常のなかに、ほんの少しの非日常を。

茂原の空の下で、そんな場所をつくりたいと思っています。

 

私たちは、2027年春に

鍼灸と指圧・パーソナルトレーニングをご提供する「指圧治療院きのはな」を

千葉県茂原市に開業予定です。

 

鍼灸師の妻と、パーソナルトレーナーの夫。

夫婦2人の、落ち着いた、ちいさな隠れ家のような場所。

 

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